久しぶりに普通の小説の感想を書く。
湊かなえさんの「サファイア」は短編集で、それぞれの短編に宝石にちなんだタイトルが付けられている。
「真珠」は、とある男女の何気ない会話から、とんでもない事件の存在が浮かび上がっている仕掛けの作品。この二人はどういう関係なのか?どこで話しているのか?読みはじめた段階でわかる人はいないだろう、意外すぎる展開に驚く。しかし、最後のオチが無駄にダークなのはどうなのか。このくだりいるか?
「ルビー」は、とある田舎でスローライフを送っている家族の近くに、大型の老人介護施設が建ったところからはじまる。家族は、施設で暮らしている一人の老人と知り合い、次第に親睦を深めていくのだが…。これまた、意外性の中にも納得感があり楽しめた。が、やはり最後はモヤッとした結末。スッキリと終わらせることができないのは、もはや湊さんの手癖の一種なんだろう。
「ダイヤモンド」は都市のおとぎ話とでもいうべき作品。結婚をチラつかせる性悪女に大金をだまし取られた男のもとに、1話の雀が人間の姿になってやってくる。恩返しをしたいというので、男は雀に彼女のことを調べて欲しいと告げるが…。途中まではスカッとなんだけど、最後がかなしすぎますねー。
「猫目石」はその名のとおり、1匹の猫の逃亡劇からはじまるとある家族の物語。一見すると普通の家族が、それぞれにささやかな…もとい、結構えげつない秘密を抱えていたりする。最後にはとんでもないことが!地味に、この作品が一番怖いかもしれない。
「ムーンストーン」の切れ味は鮮やか。DV夫を殺してしまった女性と、その弁護を買って出た敏腕弁護士は実は高校の同級生で…という話なんだけど、すごい罠がしかけられている。予想外のところから飛んでくる回避不能攻撃で、バッサリと騙されること間違いなしの傑作。
表題作「サファイア」と最終話「ガーネット」は2編一組になっていて、共通の登場人物が出てくる。前者は闇、後者は光属性のエピソードなので注意。サファイアでの負のイメージをガーネットで浄化してくれる感じだ。まあ、実際のところ、美談みたいになってるけど違くね?という気もするけど。「サファイア」前半の、男女が旅先で出会って恋愛関係になっていくくだり、まぶしすぎて目が溶けそうだった。こんな青春が送りたかったよ。