「前の記事で紹介した「僕が愛したすべての君へ」と対になる作品。

君を愛したひとりの僕へ (ハヤカワ文庫 JA オ 12-2)
- 作者: 乙野四方字,shimano
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2016/06/23
- メディア: 文庫
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僕が愛した~の感想はこちら。作品の前提になる知識はこっちに書いたので、先に読んでもらったほうが良いかも。
「僕が~」のほうでも書いたが、7歳時に両親が離婚した高崎暦が、父親についていったバージョンの世界。
こちらの世界では、暦は幼いころに栞という少女と出会う。成長するにつれて互いを異性として意識するようになった二人だったが、二人がショックを受ける出来事があり、つらい現実から逃げ出すために、「平行世界への駆け落ち」を計画する。その計画は失敗に終わり、栞はある絶望的な運命に見舞われてしまう。以後、暦は栞を救うためだけに人生のすべてを捧げるのだった…。
という感じで、「僕が~」と比べるとかなり重苦しく、悲劇的な物語になっている。幼いころに両親のどちらについていったかでこうも異なる人生を歩むことになるのか、という感じではあるが、これこそが本作のテーマである平行世界の可能性の一つなのだ、ということだろう。
あちらの「暦」が、自分と恋人との関係性を軸に、社会や世界のあり方について理解を深めていったのに対し、こちらの暦はただひたすらに栞のこと、それだけである。必然視野も狭く、近視眼的な性格のように映る。が、それもまた栞に対する思いの裏返しであり、その点においては愛情、悔恨、贖罪、そしてひとかけらの希望という複雑な思いが絡み合い、深化した、あまりにも純粋で強すぎる思いとして描かれているのが胸をうつ。悲劇ではあるけれど、二人の恋は、どれほどの時を超えても揺らぐことのない奇跡だったのだと思う。
この作品の結末は、「僕が~」にリンクしているので、是非両方読んでみてほしい。そして、読む順番としては、自分は「僕は~」→「君を~」→もう一回「僕は~」の序章と終章、という順番を勧める。なぜなら、「僕は~」のほうが、平行世界やそれを取り巻く社会の変化など背景についての説明が充実しているので、そっちを先に読んだほうが理解しやすいと思うからだ。そのうえで「君を~」を読んでから、最後にもう一回「僕が~」に戻るのが一番良いと思う。もちろんどっちからどう読んでもいいのだけど、一応一つの案として。ただし、どっちかだけ読んでしばらく置くのはお勧めしない。内容を忘れてしまって二度手間になるかもしれないし、感動が薄れてしまうので。必ず2冊一気に読んでほしい。